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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)708号 判決 1974年5月29日

大阪市生野区生野西四丁目一八番六号

原告

北村政夫

右訴訟代理人弁護士

山田一夫

細見茂

金谷康夫

岡村渥子

西本信夫

同市生野区猪飼野中

被告

生野税務署長

安藤敏郎

同市東区大手前之町

大阪国税局長

山内宏

右代表者法務大臣

中村洋吉

右被告三名訴訟代理人弁護士

上原洋允

同訴訟復代理人弁護士

町彰義

同指定代理人検事

井上郁夫

同法務事務官

山口一郎

同大蔵事務官

安岡喜三

右被告生野税務署長、同大阪国税局長

指定代理人大蔵事務官

福島三郎

河本省三

右被告国指定代理人大蔵事務官

向後雄

羽根晃

立川正敏

畑中英男

右当事者間の更正処分取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告生野税務署長が昭和四一年六月一五日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を七三万八二〇六円とする更正のうち、四九万二九一二円をこえる部分を取消す。

原告の被告生野税務署長に対するその余の請求および被告大阪国税局長、同国に対する請求はいずれも棄却する。訴訟費用は、原告と被告生野税務署長との間においては原告に生じた費用の五分の四を同被告の、その余を各自の負担とし、原告と被告大阪国税局長、同国との間においては全部原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告生野税務署長(以下、被告署長という)が昭和四一年六月一五日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を七三万八、二〇六円とする更正のうち、四五万二、八九八円をこえる部分を取消す。

2  被告大阪国税局長(以下、被告局長という)が昭和四三年四月一六日付でした、前項更正に対する審査請求棄却の裁決を取消す。

3  被告国は、原告に対し、五万円とこれに対する昭和四三年七月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに第3項につき仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、生野区内商工業者の組織である生野商工会の会員で縫工業を営む者であるが、昭和四〇年分所得税につき、昭和四一年三月一一日総所得金額を四五万二、八九八円、所得税額を零円として白色申告書による確定申告をしたところ、被告署長は同年六月一五日総所得金額を七三万八、二〇六円、所得税額を二万九、八五〇とする更正ならびに過少申告加算税一、四五〇円を賦課する決定をし、そのころ原告に通知した。

2  そこで、原告は同年七月一五日、右処分につき被告署長に対し異議を申立てたところ、同被告は同年九月二一日これを棄却するとの決定をし、そのころ原告に通知したので、原告は同年一〇月二〇日、被告局長に対し審査請求をしたが、同局長は昭和四三年四月一六日これを棄却するとの裁決をし、原告は同月一八日右裁決書謄本の送達をうけた。

3  しかし、本件更正には次の瑕疵があり取消されるべきである。

(一) 被告署長がした本件更正には、理由として通則法二四条、六五条と記載されているのみで、その後の異議申立てに対する決定、ならびに被告局長の審査請求に対する裁決によつても、被告署長がいかなる調査をして、いかなる資料を得、その資料と本件更正とがどのように関係するのか不明であつて、更正の理由は充分明らかではなく、不服審査制度における争点主義に違反している。

(二) 被告署長は、原告に対して更正をすべき何らの調査、資料もなく、恣意的に本件更正をしたのであり、本件更正は違法である。

(三) 被告署長は、原告が商工会々員であるが故に、商工会の弱体化を企図して本件更正をしたのであり、本件更正は違法である。

(四) 原告の本件係争年分の総所得金額は四五万二、八九八円であり、本件更正は原告の所得を過大に認定した点で違法である。

4  また、本件裁決には次の瑕疵があり取消されるべきである。

被告局長は、原告が昭和四一年一〇月二〇日、同被告に対し被告署長からの弁明書の提出を請求したのにかかわらず、原処分庁に弁明書の提出を要求していないから右請求に応じられないと回答し、行政不服審査法(以下、審査法という)第二二条に違反し、かつ、争点の整理を怠り、更に、原告が昭和四一年一二月三日、本件更正の理由となつた事実を証する書類の閲覧を請求したのに対しても、更正決議書、異議申立書、確定申告書の三通のみ閲覧を許可する旨通知したにとどまり、実質的には同法第三三条に違反して閲覧を拒絶したのであつて、本件審査手続は違法である。

5  被告局長は、被告国の公権力の行使に当る公務員であるが、原告の前記審査請求に対する審査を行なうについて、通常六か月、最大限度一年で裁決をすべきであつたにかかわらず、故意に一年六か月間も放置して、これを遷延させ、速やかな行政救済をうけるべき原告の権利を侵害し、少くとも五万円に評価できる無形的損害を与えた。

よつて原告は、被告署長に対して本件更正の取消しを、被告局長に対して本件裁決の取消しを、被告国に対して五万円とこれに対する不法行為の日の後である昭和四三年七月一六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める。

二、請求原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1のうち原告が生野商工会々員であることは不知、その余は認める。

2  同2は認める。

3  同3については、(一)のうち本件更正に原告主張のとおりの理由を記載したことは認めるが、その余は後に述べるとおりである。

4  同4については、被告局長が原告主張のとおり弁明書提出の要求に応じなかつたこと、および、原告主張のとおりの書類の閲覧を許可する旨通知したことは認めるが、その余は後に述べるとおりである。

5  同5のうち、被告局長が被告国の公務員であり、原告の審査請求に対して、約一年六か月後これを棄却するとの裁決をしたことは認めるが、この余は否認する。

三、被告らの主張

(被告署長)

1 被告署長は、原告の本件係争年分所得の調査のため、昭和四一年一月二〇日所部の係官寺嶋事務官を原告方に臨場させ、同事務官は原告に臨場の目的を告げ、取引に関する質問ならびに帳簿、記録の提示を求めたが、原告は事業の概況についての応答をしただけで、領収書、メモ等を保存し提示するという可能な範囲での協力すらせず、原告の収支を明らかにする帳簿、記録等は備付けがないとして提示しなかつた。そこで、同事務官は原告の事業規模、取引先等を調査し、これによつて得た資料と管内の原告と同業種の者とを比較し、原告の業績を推計した。

更に被告署長は、前同様の目的のため、原告の本件申告後である昭和四一年四月二八日所部の係官杉原事務官を原告方に臨場させ、同事務官は原告に臨場の目的を告げ、確定申告書の計算の根基を示す帳簿、記録の提示を求めたが、原告は帳簿、伝票類は記録していないから提示できないと申立てた。そこで、同事務官は、右のとおり原告の協力が得られなかつたのでやむなく、その後商工会事務局を通じて提出された本件係争年分の収支明細書の内容を検討するとともに、原告が申立てた事業収益率等を勘案して、原告の当該年分事業所得を計算し、被告署長はこれに従つて本件更正をしたのである。

従つて、被告署長はなすべき調査をしたうえでやむなく本件更正をしたのであつて、商工会の弱体化を企図していたものではない。

2 原告の本件係争年分総所得金額(事業所得)およびその内訳は次のとおりである。

(一) 収入金額 三〇六万九、五八〇円

(二) 必要経費 二三一万二、四六八円

公祖公課 七、一二〇円

水道光熱費 三万六、〇五五円

旅費通信費 四万一、三二四円

接待交際費 二万二、〇〇〇円

火災保険料 八、〇〇〇円

修繕費 三万六、〇〇〇円

消耗品費 九万三、五九三円

福利厚生費 六万四、〇〇〇円

減価償却費(事業用車輛)

一〇万一、八九八円

雑費 二万九、六四〇円

雇人費および外注費 一七九万五、八六一円

(内訳は別紙1のとおり)

地代家賃 六万三、六〇〇円

支払利子 一万三、三七七円

(三) 差引所得金額 七五万七、一一二円

よつて、被告署長がした本件更正は適法である。

(被告局長)

1 審査法第二二条第一項によれば、審査庁が処分庁に対して弁明書の提出を求めるか否かは、審査庁の自由裁量に属する事項であるから、審査庁が弁明書の提出を求めることなくして裁決をしたことをとらえて、裁決取消訴訟の違法理由とすることは失当である。

即ち、行政不服審査制度は行政事件訴訟とは異なり、処分庁の一上級行政庁である審査庁が簡易迅速な手続により国民の権利救済を計るものであり、審査庁において弁明書の提出を求めなくても、その他の資料により事案の争点が明確に把握でき、裁決するのに支障がないと判断したような場合には弁明書の提出を求める必要はなく、従つて、審査請求人から弁明書副本の送付請求があつても、常に処分庁に弁明書の提出を求め、請求人にその副本を送付すべき義務はない。

そして、本件のような所得税に関する審査請求の審理は、事案が大量に発生し、かつ、当該処分に対する不服内容は概して事実認定の当否にかかわるから、税務行政に習熟した協議官が自ら進んで必要な調査を行い、処分関係職員および審査請求人双方から口頭で意見を聴取する方が、迅速適切な処理をすることができるので、弁明書の提出を求めなかつたのである。

2 審査法第三三条によれば、審査請求人が閲覧を求めうるのは「処分庁から審査庁に提出された書類その他の物件」に限定されているのであり、審査庁に対して処分庁からあらたに書類等の提出を求めることまで請求しうるものではなく、また、処分庁がいかなる書類等を審査庁に提出するかは、処分庁の裁量にゆだねられている。そして、本件において、被告局長は、処分庁である被告署長から被告局長に宛てて送付されていた書類の全てについて、閲覧を許可しているのであるから、原告の主張は失当である。

よつて、被告局長のした本件裁決に、審査手続の違法はなく、右裁決は適法である。

四、被告らの主張に対する答弁

1  被告署長の主張1のうち、原告の本件確定申告の後、本件更正がされるまでの間に、原告が生野税務署の担当者から調査をうけたことは認めるが、その余は否認する。

原告は取引先、被服一枚に要する経費、人件費等につき生野税務署担当者に説明し、同担当者らの調査も原告が提出した収支明細表をよりどころとし、原告の協力の下に行なわれたものである。また、原告がした本件申告は白色申告であり、帳簿、記録等の備付けは義務づけられていないから、これらの備付け、提示がなかつたことは更正の理由とはならない。

2  同2のうち、(一)ならびに(二)の福利厚生費、減価償却費、雇人費および外注費、ならびに(三)の各金額を否認し、その余は認める。

右に否認した必要経費々目には被告署長の主張する外に、福利厚生費として運動会費五万円が、減価償却費としてミシン四台(昭和三六年八月、九万二、〇〇〇円にて取得、耐用年数九年)の減価償却費が、雇人費として吉本ヤスコに対する一七万五、〇〇〇円が、外注費として松尾みどりに対する三万六、七一七円が、それぞれ計上されるべきである。

3  被告局長の主張1、2はいずれも争う。

第三証拠

一、原告

1  甲第一号証を提出

2  証人山下秀明、同北村春美の各証言を援用

3  乙第一、第四号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知

二、被告

1  乙第一ないし第五号証を提出

2  証人森川武夫の証言を援用

3  甲第一号証の成立を認める。

理由

一、請求原因1のうち原告が生野商工会々員である点を除くその余の事実および2の事実については当事者間に争いがない。

二、そこで本件更正の手続上の瑕疵につき原告の指摘する点を順次検討する。

1  本件更正には理由として通則法二四条、六五条とのみ記載されていたこと、および、原告が白色申告書によつて本件係争年分の確定申告をしたことは当事者間に争いがない。

ところで、国税通則法第二八条第二項は、更正により課税標準および税額等がいかに変動したかを明瞭にするため、更正通知書に同項各号所定の事項を記載すべきものとし、青色申告に対する更正については、これに加えて所得税法第一五五条第二項が、青色申告書にかかる年分の総所得金額等を更正する場合には、その更正の理由をも付記すべきものとしているが、白色申告については、納税者に青色申告書のごとく記帳およびその保存を義務づけていないと同時に、これに対する更正の場合に右のような理由付記をすべき旨の規定もないから更正の理由を知りうることが納税者にとつて望ましいことであるとしても、その記載がないことをもつて当該更正を違法とすることはできない。

2  原告の本件係争年分所得税の確定申告後更正がされるまでの間に、生野税務署長担当者が右所得について質問し、原告から説明を受けたことは当事者間に争いがなく、また、公務署作成部分についてはその方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから、前田衣料株式会社作成部分については弁論の全趣旨から、それぞれ真正に成立したものと認められる乙第二号証によれば、被告署長は、本件更正前である昭和四一年五月一〇日、前田衣料株式会社に対し原告との取引内容に関する照会文書を発し、同月一三日同社からの回答を受領していることが認められるのであつて、被告署長が更正をするにつき調査し資料を得ていることは明らかである。

3  被告署長が商工会の組織の弱体化を企図して本件更正をしたとの点については、本件全証拠によつても、これを窺うことはできない。

三、次に、原告の本件係争年分の総所得金額につき判断する。

1  前顕乙第二号証および証人森川武夫の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証によれば、原告が、昭和四〇年当時縫工品の加工下請をしていた前田衣料株式会社および同会社の前身である前田商店から同年中に支払いをうけた工賃は、三〇六万九、五八〇円であることが認められ、これを左右するに足りる証拠はないから、原告は同年中に少くとも右金額の収入を得ていたものと認められる。

2  必要経費のうち、減価償却費、雇人費および外注費、福利厚生費を除く各経費々目については当事者間に争いがないので右に挙げた費目につき検討する。

(一)  事業用車輛の減価償却費については、当事者間に争いがない。

証人北川春美、同森川武夫の各証言によれば、昭和四〇年当時原告は四台のミシンを所有してこれを縫製加工業に使用していたこと、右ミシンはいずれも昭和三六年ころ一台につき二万三、〇〇〇円位の金額で購入したものであることが認められる。もつとも証人森川武夫の証言によると、同証人は大阪国税局協議団に勤務中本件審査請求事件を担当し、昭和四二年ころ原告方に臨場したが、原告方のミシンはいずれも外見上古く、昭和四〇年には既に耐用年数を経過していたものと判断したことが認められるが、ミシンの外見的古さは手入れの状態によつても異なるであろうし、また、未使用のミシンか使用開始後のミシンかの判別は比較的容易であるとしても、数年間使い込んだミシンについて六年使用したものか一一年使用したものかの判別を、縫工業あるいは縫工機械の専門家でない同証人が、よくなしうるとはにわかに認めがたく、その判断は前記認定を左右することはできない。

そして減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年大蔵省令第一五号)によれば、事業用ミシン(縫製品製造業用設備)の耐用年数は九年、残存割合は一〇〇分の一〇であるから、定額法により右ミシン四台の減価償却費を算出すると、九二〇〇円となる(計算は別紙2)。従つて減価償却費の総額は一一万一、〇九八円である。

(二)  原告が昭和四〇年に別紙1のとおりの雇人費および外注費を要したことは、当事者間に争いがない。

そして原告は右のほかに雇人費として吉本ヤスコに一七万五、〇〇〇円を、外注費として松尾みどりに三万六、七一七円を支払つた旨主張する。成立に争いのない乙第四号証および証人森川武夫の証言によれば、被告局長が右吉本および松尾らの実在を確認するため、同人らに対し原告のいう住所地宛に照会状を発送したところ、これらは郵便局から返送され、また、同人らは本件係争年中において右住所地である生野区の住民票に登載されていなかつたことが認められるが、同証人の証言によつても右返送の理由は不明であり、かつ、住民票の存否は現実の居住状態と必ずしも一致しない場合があることを考えれば、右事実によつては、未だ右吉本および松尾が実在しないと認めるに足りない。かえつて、証人山下秀明、同北川春美の各証言によれば、原告方の従業員中に吉本ヤスコと名のる者が、ボタンつけ等の外注先に松尾みどりと名のる者がおり、右吉本に対しては本件係争年中を通じて約一七万五、〇〇〇円、右松尾に対しては同年中の下半期の約半年間にわたり月平均五、〇〇〇円程度の工賃がそれぞれ支払われたことが認められる。

そうすると、雇人費は吉本の賃金一七万五、〇〇〇円を加えて一四五万一四六一円、外注費は松尾の加工賃三万円を加えて五四万九、四〇〇円、その合計額は二〇〇万〇、八六一円となる。

(三)  原告が昭和四〇年に福利厚生費として六万四、〇〇〇円を支出したことは、当事者間に争いがない。

そして、証人北村春美の証言によれば、原告方においては昭和三六年頃から五、六名を雇つていたが、その従業員の慰労のため毎年春秋の計二回、大阪近郊の公園等へ運動会と称して日帰りの小旅行を行ない、その費用は原告が負担していたことが認められる。もつとも、証人山下秀明は、原告方での運動会は一泊旅行をするとか大阪近辺で飲食をするといつたものである旨証言し、これは証人北川春美の運動会では一泊旅行をしたことがない旨の証言と矛盾するが、証人山下秀明が証言時までにした運動会以外の旅行と混同しているとも考えられ、小規模の企業において従業員の定着をはかるためその慰安旅行等を企業主が費用を負担して行うのは異例なことでもないので、右証言間の矛盾のみをもつて、原告方における運動会の実施が虚構であると断ずることはできない。

そして昭和四〇年における右運動会の費用の額を明らかにする的確な資料はないが、原告が支出したと主張する運動会費五万円は、前記従業員数、収入金額等からみて、不当に高額であるとは解されないので、右金額を運動会費として取扱うほかはない。すると、福利厚生費は一一万四、〇〇〇円となる。

従つて、原告の本件係争年分の必要経費は、当事者間に争いのない費目の金額に右各費目の金額を加えた二五七万六、六六八円となる。

3  よつて、前記収入金額から右必要経費を控除すれば、原告の本件年分の総所得金額(事業所得)は四九万二、九一二円となる。

四、次に本件裁決の瑕疵につき検討する。

1  原告が昭和四一年一〇月二〇日被告局長に対し、被告署長からの弁明書の提出を要求したこと、および、被告局長が、原処分庁に弁明書の提出を要求していないとして、これに応じられないと回答したことは、当事者間に争いがない。

ところで、審査法第二二条は昭和四五年法律第八号による改正後の国税通則法第九三条とは異なり、審査庁が審査請求の当否を判断するに当つては必ず処分庁から弁明書の提出を求めなければならないとはしていないのであり、その提出を求めるか否かは、事案の争点を明らかにし、これを適正迅速に処理するために弁明書が必要であるかどうかという観点から審査庁が決すべく、その裁量に委ねられていると解される。従つて、審査庁である被告局長が、被告署長から弁明書の提出を求めなかつたことをもつて直ちに本件裁決の取消事由とすることはできない。また被告局長が、被告署長に弁明書の提出を求めなかつたことから、被告局長が、争点の整理を怠つたと即断することもできない。

2  原告が、昭和四一年一二月三日被告局長に対し、本件更正の理由となつた事実を証する書類の閲覧を請求したこと、および、被告局長が、これに対し更正決議書、異議申立書、確定申告書の閲覧を許可する旨原告に通知したことは当事者間に争いがない。

ところで、審査法第三三条の規定によれば、審査庁は当該処分の理由となつた事実について、その指定した閲覧日までに処分庁から提出のあつた証拠資料を審査請求人の閲覧に供すれば足りるところ、証人森川武夫の証言によれば、被告局長が閲覧を許可した書類は当時被告署長から被告局長のもとに提出されていた書類の全てであつたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

従つて、被告局長の本件閲覧許可に違法な点はない。

五、次に、被告国に対する請求につき検討する。

被告局長が被告国の公務員であり、原告の審査請求に対して、約一年六か月後にこれを棄却するとの裁決をしたことは当事者間に争いがない。

しかし、通常、審査請求の審査をするのに必要な期間が最大一年であり、被告局長が故意に本件裁決を遷延させたとの事実は、本件全証拠によつても認めることができない。

六、以上の事実によれば、原告の本訴請求は、被告署長に対し本件更正のうち総所得金額四九万二九一二円をこえる部分の取消しを求める限度で理由があるから認容し、同被告に対するその余の請求および被告局長、同国に対する請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官 富越和厚)

別紙

1. 雇人費および外注費 一、七九五、八六一円

雇人費

山下ハナエ 二三二、四六一円

上垣敏子 二三八、〇〇〇円

岡五月 二一四、〇〇〇円

山下秀明 三九〇、〇〇〇円

山下早子 二〇二、〇〇〇円

計 一、二七六、四六一円

外注費

的場ツルコ 六一、三三七円

山本ムネ子 一〇、二〇三円

山崎ヨシエ 八九、八五一円

勝又いく 九二、〇〇九円

高橋ツネ子 五九、二五四円

坂井 四三、九九〇円

中山米子 六〇、二六八円

武市すみ 六五、二三〇円

和田伊代子 二五、九三八円

金剛穴かがり 一一、三二〇円

計 五一九、四〇〇円

2. ミシン四台の減価償却費

<省略>

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